株式会社京都銀行 代表取締役専務
小林正幸さん

JPモルガン・チェース銀行のATMコーナー

先の米国大統領選挙では、その投票結果に驚いた方が多かったのではないだろうか。新政権への期待や思惑から一転して円安が進行し、今後の政策運営への注目が集まっているが、大いに懸念することは、世界経済の停滞につながりかねない、反グローバル経済や反資本主義経済を唱える風潮が米国だけにとどまらず世界の各地で高まりをみせていることである。

ただ、これまでの資本主義経済とは幾分性質の異なる新たなスタイルのビジネスが、世界のあちこちで芽生え、しかもそれが急速に普及している事実もある。すなわちそれは、自宅の部屋や車などを見ず知らずの人と共有するシェアリングエコノミー（共有型経済）と呼ばれるものである。いろいろと問題点が指摘され法整備等の課題は残るものの、着実に世の中のニーズを掴んでおり、成長事業としての期待を集めている。そして、この新しいビジネスを成り立たせているものが、ITの発達・普及であることは改めて言うまでもない。

ITの進展は、成長著しいEコマース市場に象徴されるように、非対面取引を基本とした経済活動を促進させてきたが、対面で人と人が触れ合う経済活動でも新たな形態を生み出している。その一例が旅行であろう。かつての旅行といえば、専門会社のガイド本やパンフレットを起点に旅に出かけるスタイルだったが、今では、地域の一般の人々がブログなどで発した情報（地元の産物やお店など）に関心や共感を持った人が、その情報を起点に現地へと足を運び、そこで実際に情報を発した人と出会い地元の産物等を楽しむようなスタイルが広がっている。さらに、その旅人が今度は自分のブログなどで体験を発信し、共感した人がまた現地を訪問する・・・。こうした循環の輪がどんどん広がり、地域の経済が活性化していく。しかもそれが国外にまで波及し、しばしば意外な場所が外国人の間で人気の観光スポットになったりしている。これは体験や共感のシェアリングといえよう。

かたや、銀行業界においては、FinTech（フィンテック）に注目が集まっている。これは、Finance（金融）とTechnology（テクノロジー)を組み合わせた造語であるが、文字通り、急速に進化するITの活用による金融サービスのことで、世界中で開発競争が行われている。私ども地域金融機関においても、こうした先進技術を積極的に取り入れ、対面を基本とする既存店舗サービスとの相乗効果を生み出しながら、お客さまにより利便性の高い金融サービスを提供し、地域経済の活性化につなげてまいりたいと思う。