株式会社 増田医科器械 代表取締役社長
戸島 耕二さん

ユネスコ憲章の前文に「戦争は人の心の中でうまれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」。有名な文句です。 

先年、弊社の仕入れ取引先の大手光学医療機器メーカーの長年にわたる多額の粉飾決算が発覚した事件がありました。同社は一時、存続の危機に陥り、弊社にとっても、そしてユーザーである医療施設にも多大な支障をきたす事態に陥りました。その後、新経営陣の懸命な営為によって収拾が図られ、株価も復活し従前以上の企業体質に復活されております。

時を越え、事象は趣を異にしますが、前にも、その後も同様の事件が起こっております。これに対し、共通する改善策のひとつに、第三者委員会を立ち上げ、「予防」の策を練り、「体制」を構築していくというのが一般的な処方となっております。これはこれで必要不可欠の処理であろうかと思われますが、どうしてでなく、何故、不祥事が繰り返されるのか、根本のところを、深く熟慮すべきではないでしょうか。 

嘘のような話ですが、この医療器メーカーの旧役員がこの粉飾の犯罪に手を染め続けた理由は、「何代もおなじことを行ってきた」。「自分の代に、自分だけが責任を負いたくない」、という身勝手な言い訳でした。では、なぜこのような判断を行ったのでしょうか？勇気を持って、役員の本来の責務を果たさなかったのでしょうか？

それは、この粉飾を公表したなら、自分たちの高額な年俸を失い、得られるであろう少なくない役員退職功労金を逸失するからです。つまり、経営「人」の欲望とエゴイズムが従前に構築されているルールを骨抜きにした、ということが、いえるのではないでしょうか。 

企業経営にあたり、ハード面の「制度」の改善と併せ、そしてそれ以上に、経営陣の欲望と愚かさを制御し、コントロールしていく「人間」の内面のソフトパワーを築いていくことが最重要であると、月々、日々に内省する昨今です。

法律・制度に優先する倫理観　このことを本稿の結びといたします。