美濃清商工株式会社 代表取締役社長
若山貴義さん

「春は曙。やうやう白くなりゆく山際、すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」

桜の開花が目に映るとき思い出すのが清少納言の枕草子。今年の立春が二月四日、旧暦では三月二十日にあたるので丁度今頃の情景であろうか。この日（3/20）の日の出は、午前6時02分、春眠暁を覚えず惰眠を貪る小生には鳥の囀りに耳を傾ける余裕もなく出勤支度に精を出す。時は行く。而（しか）して、通勤途上の天神川沿いの桜もいつの間にやら開花が進み一気に満開近し今日この頃。仕事に就いてこの方、桜をめでる心の余裕なく過ごしてきた。以前、木材市場の業務では花の咲く木は商売にならぬと教えられ、桜のトンネルを抜けながら桜の花が目に入らず、葉桜 若葉盛んになった頃に桜は何処にと問う始末。来年こそは来年こそはで今日に至る。サクラといえば思い出すのが水目桜-ミズメザクラ-。実は樹皮が桜に似ているだけで桜の名称。桜のような花は咲かないカバノキ科カバノキ属の落葉広葉樹。この木、別名「梓-アズサ-」（そんな名前の特急列車があったが….）、もう一つの名を「夜糞峰榛-ヨグソミネバリ-」樹皮を剥ぐとサルチル酸メチル、サロメチールの臭いがするのでこのような汚名を冠せられた。チェンソーで伐採されると刃が入るに従って白の木片からピンクにかわり木片が排出される。木口は白（辺材部）とピンク（心材部）の色鮮やかなコントラストが目に染みるほど美しい。

閑話休題。

「わたしゃお多福（たふく） 御室の桜 鼻（花）は低くても人が好く」とは、仁和寺の境内にある桜、御室桜を謳ったもの。ほかの桜が花吹雪になる頃に開花を迎える。我が家からは目と鼻の先なのだが、この歳になるまで2～3回ほどしか見(まみ)えていない。ソメイヨシノを見過ごし、まだ御室がある、間に合う、が災いしてのこと。「明日ありと思う心のあだ桜　夜半に嵐の吹かんともかな」親鸞聖人の有名な和歌。無常迅速（むじょうじんそく）、時人不待（ときひとをまたず）。明日がある明日があるの歌はあるけど、今日の日は二度と来ない、かけがえのない一日、この一日を精一杯生きることこそ素晴らしい。日々是好日（にちにちこれこうにち）。