キョーラク株式会社　代表取締役社長
長瀬孝充さん

 日本を代表する山「富士山」、その美しさは誰もが認めるところである。その富士山が世界遺産に登録された。2013年6月22日に行われたユネスコの第37回世界遺産委員会での決定である。誠に嬉しく喜ばしい限りである。

　新幹線から眺める富士山は、四季折々の風情で毎回姿を変えるが、その美しさは変らない。見るたびに何故か自然に両手を合わせてしまう、そんな力が富士山にはある。

　富士山は、我が国では古くから信仰の対象とされており、山頂への巡礼登山も行われてきた。男なら一生に一度は登りたい山であるが、その思いが2年前に実現した。夕方3時頃から登り始め、一旦７合目で仮眠を取り、夜10時より再び登りだして山頂でご来光を待つのである。

  私はフルマラソンの経験があり、完走もしているので、足には少し自信があった。しかし富士登山は、それとはまた全く違う体力を使うらしく、ひたすら上へ上へと足を運ぶ、あまりに辛くしんどい登山で、思いつきで気軽に登れるものではないと思い知った。

  ところで、富士山は日本を代表する火山でもある。遠く万葉の時代には、「燃ゆる火を雪もち消ち、降る雪を火もち消ちつつ」と歌われている。登山道を行けば、外から見るとあんなに美しい山が、鬼の形相のごつごつした溶岩ばかり。遠くから見る顔と近くから見る顔がこんなに違うのも、また魅力のひとつかと気付かされた。

　あいにく当日は小雨模様で、ご来光は拝めなかったが、頂上に着いたときの感動は、言葉では表せず、知らずに涙が出てきた。何と言っても日本の最高所、標高3776ｍの絶頂である。当日、そこにいるすべての人々がその事実を噛み締めているようであった。

  日本最古の物語といわれる竹取物語には、かぐや姫から贈られた不死の霊薬を富士山頂で焼く場面が出てくる。これは富士山の噴煙の由来を説いていると見られる。現在は噴煙も上げず、おとなしいように見える富士山だが、過去には何度も大噴火を経験している。

  願わくはいつまでもこのままで、美しい姿を我々に見せていて欲しい。我々もまた、世界遺産登録を契機に、美しい富士山を大切に守り、子々孫々に伝えていきたいものである。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ながせ・たかみつ＝本会幹事、２０１３年10月）