京都むらさきの総合税理士法人 代表社員・所長税理士
北條達人さん

「納税したい、と強く願う人たちの存在を知っているだろうか。」衝撃的なフレーズがずしりと心に響きました。平成29年度、国税庁長官賞を受賞した税の作文にあった一文です。北海道の高校一年生の作文に、専門職である私自身が、あらためて税についての認識を確かめさせられた気がしました。

国税庁では、次世代を担う児童・生徒・学生たちに、税に関する正しい知識を身につけてもらうため、様々な活動をしています。すなわち、税の学習コーナーの公開、租税教室の推進、税の作文表彰などです。私は、税理士としての活動をはじめた頃から、日本では税に関して体系的に学ぶ教育がないことを不満に思っていました。そこで、租税教室の講師として、子供達に正しい税知識を伝える活動を続けて参りました。

税を取られる、という表現をよく耳にします。日本では、もしかしたら納税は年貢のようなイメージなのだろうと感じます。しかし、自分の身の安全、健康、交通などを自分でまかなうには莫大な費用がかかるはずです。子供の教育を、すべて自分で手当てすることなどできません。私たちは、自分自身と家族が安心して暮らすために、コミュニティを形成し、都市を形作り、国家を成立させました。その社会的コストが税であり、それは自らがそこに所属するための会費といえるものでしょう。この事実に対して漠然としか認識がないから、親は家庭の中で安易に税を取られると言い、子供達はそれをまねて税は取られたくないと言います。

小学校で租税教室を行い、税金が無くなったら学校が無くなるよ、と教えるだけで子供達は本質的に理解をします。税金って大切だよねと、大きな声で同意をしてくれます。「じゃあ、どんな税金があったらいいだろう」と質問をすると、チョコレート税、ぜいたく税、うそつき税、りこん税など、ユニークかつなるほどと唸らされる答えが、大きな声で次々と返ってきます。租税教室で一番幸福な時間です。

私たちは、大人として社会人として、子供達に恥じない行動や言動を心掛けねばなりません。「税の使い道が納得いかないから」という言い訳はきかないでしょう。それは選挙権を通して是正すべき問題であり、納税義務と混交して論じるのはフェアではありません。税は取られるものではなく、社会の一員として適正額を正しく納めるものであると、背筋を伸ばして伝えていける社会を目指したいと願います。