古橋産業株式会社 代表取締役社長
古橋秀敏さん

　昭和32年ひのととり生まれの小生は再来年2017年に還暦を迎える。これまで30代・40代・50代と節目の大台に乗るごと、それぞれの来し方各10年はあたかも１つのビジネスモデルの賞味期間が時代と共に逆幾何級数的に半減していくが如く、体感期間が10年ごとに半減していくように感じられた。来たるべき60代の10年間が更に矢の如く過ぎるのかと思うと誠に空恐ろしい。

　時間が経つのを速く感じるのは加齢と共に頭の回転が鈍るためとの説がある。頭の回転が速いと時間の流れに対する相対速度が遅くなり時間を長く感じる、回転が遅くなると相対速度が速くなり時間を短く感じるというもの。当否はともかく、頭を使えということか。

　刺激を受け啓発を得るには本を読むか人と接するかしかないとかねて思っているが、決して読書家ではない小生が、かつて経営学の徒であった学生時代に読んで今なお行動の指針とする本に、マーチ／サイモン「オーガニゼーションズ」という本がある。詳細は省くが、最も関心を惹いたのは「合理性の認知限界」との考え方で、これは、意思決定に際し、古典的な経済学が「完全なる合理的人間」を前提に、

(1)人間は、採り得る可能な代替的選択肢を全て知っている
(2)人間は、各選択肢の結果についての確率分布を全て見通している
(3)人間は、各選択肢の結果を評価する明確な価値基準を盤石に備えている

とモデルするのに対して、現実の人間は(1)も(2)も(3)も不確実で、従って人間は結果の効用を極大化するよう行動するのではなく、結果の効用が一定の満足水準を超えたらそれで良しとするよう行動する――と、概ねそのような内容と理解している。（同書の著者は前者を「maximizing基準」と呼び後者を「satisfying基準」と呼ぶ。）

　国立大学での人文社会科学系学部の規模縮小を唱える文部科学省方針が議論を呼んでかまびすしいが、来たるべき60代10年間の体感期間を少しでも長からしむべく、カビた古書を久し振りに少し取り出してみるかなと思う。

（写真は1977年の同書翻訳初版本。因みに同書は長らくweb検索してもヒットせず、絶版になったのかな、経営学の議論はもはやこのような論点に無く最先端はもっと別のところへ行ったのかなと思っていたが、最近第２版の翻訳が出版されたようで喜んでいる。）