学校法人 大和学園　理事長
田中誠二さん

学校法人 大和（たいわ）学園では、管理栄養士、栄養士、調理師、製菓衛生師、診療情報管理士、医療情報技師はじめ医療事務やホテル・ブライダル・旅行分野のホスピタリティ産業に従事する職業人を養成する４つの専門学校を運営しています。職業教育の基本は“おもてなし”の心やホスピタリティの精神を持つことであり、これらの定義は諸説ありますが、“おもてなし”やホスピタリティに共通することは、お互いの異なりを認め合い、相互に敬愛しながらそれぞれの価値を高めて、主客ともに心地よい関係を築くことだと、私は理解しています。

ご高承のとおり京都は、学術、文化、藝術を尊び、山紫水明の豊かな自然と調和するホスピタリティ精神を伴って古くから発展してきました。京都人が、命に対する愛おしみや人への思いやり、自然への畏敬の念を大切にする「もののあわれ」の感性を知り、品位あるおもてなしの心に満ちていたからこそ、この街が今日まで、世界からも希少な都市として注目されてきたのではないでしょうか。

2013年には京都市の観光客数が過去最高値を更新し、米国旅行雑誌の「ワールド・ベスト・シティ」ランキングで、京都市は第１位となりました。また「和食；日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。このことは、私たちが大切に伝え育んできたおもてなしの心や継承すべき伝統を守りつつ、その時代に応じた革新を行う清新の志、進取の気性を重んじる心が、世界から高く評価されたものと誇りに思うところです。

一方で、Webの急速な普及により、世代間のコミュニケーションが希薄になったというのは、ネット社会に慣れ親しんでいない世代のみならず、誰もが感じることではないでしょうか。若者は、メールやインターネットを通したつながりには卓越した力があり、今までとは違う価値観で、グローバルかつスピーディーにネット社会へ飛び込んでいます。しかしながら、目上の方や集団とのface to faceの交流が少なくなり、マナーや機微を理解して他者を気遣うことには無頓着な気がします。

現代社会において、コミュニケーションツールとして今や欠かせないソーシャルネットワーク。そんな時代だからこそ、今一度、私たちが大切に受け継いできたそれぞれの郷土の古き良き文化や心を見つめ直す機会なのではないでしょうか。質素倹約の心、自然を愛でる心、隣人との絆を大切に思う心、神仏を尊ぶ心など、先達が相伝しようとした心は、自然や環境と共生しながら持続可能な社会の発展を目指すという、世界共通の課題に対して、人としての生き方、地域のあり方を示唆してくれるものではないかと感じる次第です。私たちが人生の先輩として率先し、若者と触れ合う機会を設け、異なりを認めながら相互に敬愛し、大切に守られてきた精神を伝え育むことが必要なのではないかと感じています。

 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（たなか・せいじ＝本会幹事、２０１４年１１月）