財団法人池坊華道会 副理事長
池坊 由紀さん

　夏の甲子園は高校球児の夢である。甲子園出場をかけて、日々の厳しい練習に励む。実は、いけばなにも甲子園がある。名づけて「花の甲子園」だ。
　これはいけばなが伝統文化であり、長い修練が必要なだけに、なかなか若い人材に光が当たりにくい現状を踏まえたものだ。文化という数値では計りしれない、奥深い、そしてあいまいな世界にあって、花の甲子園出場という明確な目標を持ち若い人が挑戦している。
　試合方式は極めてシンプルだ。全国を９ブロックに分け、応募した全高校が３人一組になって一つのいけばなをいける。今年は108校のエントリーがあった。指定された花材や器に加え、持ち込んだ地元ならではの花や器もあり、それぞれの地域の特性があらわれるのも楽しい。経済は東京一極集中でも、文化は異なる歴史や背景があり、独自性に富んでいることがわかる。高校生たちが互いに議論し合い、考え方をまとめ統一テーマを作り、それに基づきいけばなをいけていく。いけるのは、その当日のつかの間であっても、日頃からのコミュニケーションや互いに対する理解力が自ずと反映される。限られた時間内で完成したら、終わりというのではない。時間内できれいに仕上げることはもちろんのこと、自分たちがどのような意図でその作品を作ったのかを、今度はプレゼンテーションする。いくらいい出来であっても、情報や内容は相手にキチンと受け止められて、初めて本来の力を発揮する。彼、彼女たちは一生懸命考え練習し、上手いだけではない印象的なプレゼンテーションを工夫する。
　中国地区代表の、詰襟の男子３人組のチーム名は「フラワーボーイズ」。低音三重奏でこの名前を聞かされると、そのギャップでまずインパクトがある。各ブロックでの最優秀校が、京都で開催される決勝に進むことができる。元気はつらつなチーム、あがってしまうのか途中でしばらく無言になってしまうチームなど各々だ。でも皆が懸命なことが伝わる。
　花の甲子園に出場した後、地元のメディアからの取材が増え、一躍時の人になった生徒たち、部員の増えた華道部など、その後は様々である。優勝した北海道の高校生は、帰りの飛行機では機内放送で優勝した旨がアナウンスされた。思いもかけない拍手をもらい、多くの人に祝福され、生徒たちが再び感激したというひとコマもある。けれども何よりも嬉しいことは、何よりも花の甲子園を目標にした生徒たちひとりひとりが、皆真剣で、主体的にいけばなに取り組んでくれたことではないだろうか。主体的になって初めて見えてくる世界があると思う。頭だけではなく、そこに身を置き経験してこそ初めて知りえる感情が在ると思う。現代に生き未来を創る、若い世代をこれからも応援していきたい。 

（いけのぼう・ゆき＝本会副代表幹事　2013年１月）